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 グルコン酸によるイシル(魚醤油)の品質改良
 食品加工技術研究室 ○道畠俊英
 石川県農業短期大学 矢野俊博 榎本俊樹
 藤沢薬品工業株式会社 白井純

研究の背景
 石川県奥能登地方には,古くから伝統食品としてイカやイワシを原料にしたイシル(魚醤油)がある。近年,エスニック料理への関心の高まりとともに魚醤油の需要は増える傾向にあるが,魚を原料とした調味料であるため独特の魚臭さと高い塩分濃度(約25%)から広く一般に受入れられないのが現状である。
グルコン酸塩(Na,K)は,種々の不快な味や臭いに対してマスキング作用を示すことから改良剤として用いられ始めており,また,いくつかの食品製造の際に食塩代替物として使用できることが報告されている。そこで,イシルに添加した場合の臭気成分の抑制と,食塩の代替として用いた場合の低塩化に関する検討を行った。

研究内容
 イシルには多くの臭気成分が存在するが,その中で刺激臭である揮発性アルデヒド類,不快臭であるジメチルジスルファイドについて,8種類の風味改良剤を添加しこれらの臭気抑制効果について検討した。その結果,5%のグルコン酸塩(Na,K)を添加することにより,揮発性アルデヒド類,ジメチルジスルファイドを約40〜50%抑制する効果が認められた。即ち,これらグルコン酸塩(Na,K)の添加によりイシルの持つ独特な臭気の抑制に効果があるものと考えられる。
 イシルの仕込みには原料に対し20%の食塩を加えて行われているが,食塩の代替としてグルコン酸塩(Na,K)を利用し低塩化のイシルを試醸した。得られた低塩化イシルの成分を表に示す。食塩濃度はグルコン酸塩代替率の増加に伴い減少し,最も低い濃度で6〜7g/100mlと従来のイシルの4分の1程度の低塩化イシルが得られた。総遊離アミノ酸量,乳酸量はイカイシルでは,対照区とほぼ同程度であったが,イワシイシルでは代替率が高くなるに伴い総遊離アミノ酸量,乳酸量とも増加する傾向が認められた。イワシイシルでは仕込みのグルコン酸の量が急激に減少していることから,乳酸菌などの微生物による発酵が行われ,対照区とは成分組成の異なる低塩化イシルが得られたものと考えられる。

(表 グルコン酸塩代替試験区の成分)

研究成果
 グルコン酸塩によりイシルの品質改良を行った結果,以下のことが明らかとなった。
(1)イシルにグルコン酸塩を添加することにより,イシル特有の臭気成分である揮発性アルデヒド類,ジメチルジスルファイドについて40〜50%の抑制効果が認められた。
(2)食塩をグルコン酸塩で代替することにより,総遊離アミノ酸量,乳酸量ともに多い新しいタイプの低塩化イシルが得られた。


論文投稿
 グルコン酸の研究 No. 1, 2003. p.6-19.




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