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微細加工に適した快削性セラミックスの結晶制御技術の研究

■化学食品部 佐々木直哉 豊田丈紫 北川賀津一

 快削性セラミックス中に含まれるマイカ結晶の析出量や大きさを制御することにより,微細加工に適した材料開発を目的とする。これまで,結晶化工程において圧力をかけながら熱処理を行うこと(HIP:Hot Isostatic Press)でマイカ結晶の微細化処理に関する技術を得ていることから,マイカ結晶成分を増加させた組成において本技術を適用した。その結果,F,MgOの組成増により結晶数を面積率で約1.7倍に増加させ,HIP結晶化処理により2〜3μmのマイカ結晶を多数析出させることが可能となった。また大気結晶化処理で現れた閉気孔が,HIP結晶化処理により消失することが分かった。これらのことより,実験試作レベルで径50μm,ピッチ60〜70μmの微細穴開け加工が可能となった。
キーワード: 快削性セラミックス,熱間等方加圧(HIP),マイカ,ジルコニア

Study of Microstructure Control of Ceramics with Micro-Machinability

Naoya SASAKI, Takeshi TOYODA and Kaduichi KITAGAWA

In order to develop ceramic materials that are suitable for micro-machining, we controlled the size and precipitation of mica and zirconia crystals contained in machinable ceramics. We developed an innovative heat treatment method by hot isostatic press (HIP), and applied it to several ceramics containing fine mica crystals. As a result, the number of crystals per area increased by 1.7 times due to an increase in F and MgO, and a number of fine mica crystals of 2-3μm in longitudinal grain size were produced by HIP treatment. It was confirmed that HIP treatment was effective in removing closed pores in the microstructure of mica crystals, which were observed in ceramics containing a high ratio of mica when they were crystallized in the atmosphere. As a result, it was possible to conduct micro drill processing of holes of φ50μm at a pitch of 60-70μm.
Keywords : machinable ceramics, hot isostatic press, mica, zirconia

1.緒  言
 快削性セラミックスは,機械加工性とともに電気絶縁性,断熱性に優れていることから,近年半導体検査用部品に利用されている。一方で半導体製品の高密度化に伴い,検査用部品に対してもより微細な加工特性が求められてきている。このような快削性セラミックスとしては,マイカ・ガラス系,窒化ホウ素系,チタン酸アルミ二ウム系などが実用化されている。工業試験場では,1986年から県内産陶石を原料とし,溶融・結晶化法を用いた快削性セラミックスの研究1), 2)をはじめ,現在は(株)フェローテックセラミックスにて「ホトベール」という商品名で製造・販売が行われている。この材料は,母材であるホウ珪酸ガラス中に高アスペクト比で無配向のマイカ結晶と微細なジルコニア結晶を均一に析出させることで優れた加工特性を発揮する。この材料の加工特性はマイカ結晶の析出量や大きさに依存し,現状ではマイカ結晶が最大長軸長で10μm以上と大きく析出量は少ないため,特に狭ピッチ(壁厚10〜20μm)での微細穴加工では,チッピング等が起こり高精度な加工特性が得られていない。つまりこの材料の加工特性向上を図るには,10μm以下の微細なマイカ結晶を多数析出させる必要がある。これまで,マイカの結晶化工程において圧力をかけながら熱処理を行うこと(HIP:Hot Isostatic Press)でマイカ結晶の微細化処理に関する技術3)やその特性4)について報告している。
  本研究では,快削性セラミックス中に含まれるマイカ結晶の析出量や大きさを制御することにより微細加工に適した材料開発を目的とする。そこでマイカ結晶成分を増加させた組成においてHIP結晶化処理技術を適用し、結晶組織へ及ぼす結晶化時の圧力効果や各種熱処理後の機械的特性について検討を行ったので以下に報告する。

2.実験方法
2.1 試料作成方法
 ガラス組成は,マイカ結晶(フッ素金雲母:KMg3(Si3AlO10)F2)の析出量を調整するため,F,MgO成分を濃度4段階に増加させた(F4.5,F5.5,F6.5,F7.5)。原料粉末はSiO2, Al(OH)3, MgF2, MgO, K2CO3, ZrSiO4, H3BO3を用い,それぞれ所望組成になるように1バッチ200gで秤量し,ボールミルにて15分間乾式混合した後,1080℃で4時間仮焼を行った。仮焼粉末を電気炉にて1350℃で2時間溶融し,グラファイトルツボに流し込んだ後,650〜450℃を6時間で徐冷することによりガラス化処理を行った。HIP(神戸製鋼所製,O2-Dr.HIP)を用いた結晶化処理は,アルゴンガス置換により圧力を30〜150MPa,核形成は780℃で4〜6時間保持,結晶成長は1050℃で10〜20時間保持の条件で行った。

2.2 HIP焼結体の評価
 得られたHIP焼結体の微細組織については,EPMA(日本電子製,JXA-8100)を用い観察を行った。焼結体は,所望の大きさに切断後,樹脂埋めしSiC研磨及びアルミナ砥粒による鏡面研磨後,濃硝酸により40分間エッチング処理を行い観察試料とした。EPMAによる電子顕微鏡写真から画像処理ソフト((株)三谷商事製,Win ROOF ver.5.7.0)によりマイカ結晶の結晶数,面積率,長軸長の分布の解析を行った。結晶相の同定については,XRD(マックサイエンス製,SRAM18XHF)を用い,バルク試料をアルミ二ウム試料板に固定し測定を行った。機械的特性として3点曲げ強度,ビッカース硬度,破壊じん性については,それぞれJIS規格(JIS R 1601, 1607, 1610)に準拠し測定を行った。

3.結果と考察
3.1 マイカ結晶の析出量増加
 図1にF4.5〜F7.5のHIP結晶化処理後の電子顕微鏡写真を示す。マイカ結晶は,板状で無配向に析出しており柱状に観察される。またジルコニア結晶は,微細な球状の粒子であり図上では白い粒子状に観察される。さらにF,MgO成分の増加に伴いマイカ結晶の析出量が増加していることが観察される。
 図2にF4.5〜F7.5のX線回折パターンを示す。マイカ結晶は,六方晶のフッ素金雲母であり,ジルコニア結晶は,単斜晶と正方晶の2種類の結晶相が析出していると考えられる。また図3にF4.5〜F7.5のマイカ結晶の面積率とBG除去後のX線強度(最強線009面)を示す。図からF,MgO成分の増加に伴いX線強度や面積率が増加し,マイカ結晶の析出量が面積率で約1.7倍増加していることが分かる。

(図1 快削性セラミックスの電子顕微鏡写真)
(図2 快削性セラミックスのX線回折パターン)
(図3 マイカ結晶の面積率と最強線(009)のX線強度)

3.2 HIP結晶化処理効果
3.2.1 閉気孔の消失
  図4に大気及びHIP結晶化処理後の快削性セラミックス(F7.5)の電子顕微鏡写真を示す。図から大気結晶化処理で現れた閉気孔が,HIP結晶化処理を行うことにより消失することが分かる。この閉気孔は,マイカ結晶の析出量が増加することにより現れると考えられる。図5にF4.5〜F7.5の見掛密度の変化を示す。見掛密度は,母材のガラスの密度よりマイカ結晶の密度の方が高いため,マイカ結晶の析出量増加とともに上昇することが分かる。また大気結晶化処理と比較しHIP結晶化処理の方がマイカ結晶の析出量に伴いより密度が高くなるので,閉気孔が消失し組織の緻密化が起こっていると考えられる。このHIP結晶化処理による閉気孔の消失により,機械的特性として図6に示すように曲げ強度のバラツキが小さくなる傾向が得られる。またF4.5とF5.5では,大気及びHIP結晶化処理とも曲げ強度に顕著な差が認められた。これは,F5.5ではマイカ結晶の面積率が50%以上となりマイカ結晶の影響が曲げ強度に大きく作用し,逆にF4.5では50%以下となり母材のガラスの影響が大きく作用するためF4.5の曲げ強度が低くなると考えられる。

(図4 快削性セラミックス(F7.5)の電子顕微鏡写真)
(図5 見掛密度の変化)
(図6 曲げ強度の変化)

3.2.2 緻密化の要因
  HIP結晶化処理による緻密化の要因としては,圧力による緻密化とマイカ結晶の微細化との相乗効果が考えられる。図7に示すようにマイカ結晶の長軸長は,圧力の上昇により微細化し,特に2〜3μmのマイカ結晶が増加した。ここで圧力が結晶化工程にどのような影響を及ぼしているかを検討した。図8に結晶成長保持時間に対する結晶数とマイカ結晶の平均長軸長の変化を示す。核生成は大気中で同一条件(780℃,4時間保持)により処理を行った。図から圧力を150MPaで処理した結晶数は,マイカ及びジルコニア結晶とも結晶成長保持時間が長くなるとともに減少することが分かる。またマイカ結晶の平均長軸長は,結晶成長保持時間が長くなるとともに大きくなる傾向が得られる。つまり結晶成長が進むと,結晶が大きくなるとともに結晶数は減少していくことを意味している。ここで圧力を30MPaで10時間保持した試料の結晶数と平均長軸長をプロットすると,白抜きの位置となる。150MPaで10時間保持した試料と比較すると,圧力を下げることにより結晶成長が進んでいることを示す。つまり圧力により結晶成長が抑制されると考えられる。

(図7 マイカ結晶の長軸長の分布)
(図8 結晶成長保持時間による結晶数(a)と平均最大長(b)の変化)

3.3 機械加工性の評価
  Baikら4)は,マイカ・ガラス系快削性セラミックス材料のマシナビリティーの指標として(ビッカース硬度 (Hv)/破壊じん性(KIC))2値を提案しており,この値が10μm-1以下でTi(C, N)基サーメット工具を用い,切込み深さ0.5mm,加工速度1m/minの切削加工が可能であると報告している。図9にF4.5〜F7.5のビッカース硬度と破壊じん性の変化を示す。図からマイカ結晶の析出量増加に伴いビッカース硬度は低くなることが分かる。また破壊じん性はマイカ結晶の析出量が増加しても変化がないことが分かる。これらの値からマシナビリティーの指標値を計算した結果,図9に示すように指標値が10μm-1以下となり良好な快削性を示すことが分かる。またマイカ結晶の析出量増加に伴い指標値が下がることから,加工性の向上はマイカ結晶の析出量に依存すると考えられる。マイカ結晶増加に伴うマシナビリティーの指標値の向上により,図10に示すように実験試作レベルで径50μm,ピッチ60〜70μmドリルによる微細穴開け加工が可能となった。

(図9 ビッカース硬度(a),破壊じん性(a)及びマシナビリティーの指標(b)の変化)
(図10 微細穴加工サンプルの外観写真(a)と光学顕微鏡写真(b))

4.結  言
(1)F, MgOの組成増に伴いマイカ結晶の析出量が面積率で約1.7倍に増加することが分かった。
(2)大気結晶化処理で現れた閉気孔が,HIP結晶化処理を行うことで消失し,曲げ強度のバラツキが小さくなることが分かった。
(3)閉気孔消失の要因として,圧力による緻密化とマイカ結晶の微細化との相乗効果が考えられ,マイカ結晶の微細化は,圧力により結晶成長が抑制されるためと考えられる。
(4)マシナビリティーの指標として(Hv/KIC)2値を計算した結果,マイカ結晶の析出量増加に伴い加工性の向上が示された。
(5)実験試作レベルで,径50μm,ピッチ60〜70μmのドリルによる微細穴開け加工が可能となった。

謝  辞
  本研究を遂行するに当たり,企業参画型研究として原材料の提供や機械加工性の評価にご協力頂いた(株)フェローテックセラミックスに感謝します。

参考文献
1) 山名一男,宮本正規,七山幸夫.快削性セラミックスの開発.石川県工業試験場報告.1986, vol. 34, p.63-70.
2) 宮本正規,山名一男.ジルコン添加によるマイカガラスセラミックスの性能向上.石川県工業試験場報告.1988, vol.36, p.21-28.
3) 石川県,住金セラミックス・アンド・クオーツ(株).快削性ガラスセラミックスとその製造方法.特開2007-246297. 2007-09-27.
4) 豊田丈紫,佐々木直哉,北川賀津一,中村静夫.HIPを用いた新規セラミックス材料合成技術の開発.石川県工業試験場報告.2007, vol.56, p.75-78.
5) Dong Soo Baik. et al. Mechanical properties of Mica glass-ceramics. Journal of the American Ceramic Society. 1995, vol.78, p.1217-1222.