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土木資材用合成繊維の開発

■繊維生活部 ○奥村航 木水貢
■信州大学 大越豊

1.目 的
 北陸地方では特有の風土・気候から,他の地方に比べコンクリートの劣化が進行しやすい。このため,北陸地方の土木分野では今後,劣化したコンクリート構造物の補修・修繕に関わる施工需要が多くなると予測されている。補修施工の一つに,劣化したコンクリートの表面に繊維シートを貼り付け,コンクリートの剥落を防止する施工方法がある。しかし,この繊維シートには必要性能を満たす適当な繊維素材がなく,アラミド繊維や炭素繊維等,比較的高価な高性能素材を使用せざるを得ないことが問題となっている。
 そこで本研究では,比較的安価なポリプロピレン繊維を高強度・高弾性率化する手法を開発し,その開発繊維をコンクリート剥落防止用繊維シートへ適用することを検討した。

2.内 容
2.1 レーザ延伸・熱処理システムの試作
 合成繊維の高強度・高弾性率化の手法の一つにレーザ延伸法がある。これは延伸工程の加熱源に炭酸ガスレーザを用いる手法であり,局所的に繊維を加熱することによって,効率的に繊維を延伸することができる。このため,通常の延伸よりも繊維を高強度化できるとされている。本手法はこれまでモノフィラメントを対象とした基礎実験であったため,本研究では工業化に向け,[1]マルチフィラメントに対応でき,[2]熱処理・二段延伸をレーザ延伸直後にできるように,図1に示す装置を試作した。

(図1 レーザ延伸・熱処理システム)

2.2 ポリプロピレン繊維の高強度・高弾性率化
 当場のマルチフィラメント製造装置を用いて,種々のポリプロピレン未延伸繊維を作製した。
 次に,この未延伸繊維をレーザ延伸・熱処理システムにより種々の条件で延伸・熱処理した。 試作した繊維の強度を図2に,弾性率を図3に示す。従来のポリプロピレン繊維と一番強いポリプロピレン繊維とされているA社製品の物性値(網掛け部分)を合わせて示す。
 延伸倍率(繊維を引張る比率)を高くすると,分子鎖が繊維の軸方向に配列されるため(分子配向),ヤング率及び強度は増加する。ヤング率に関してはA社製品以上の物性値を示し,強度に関してはA社製品と同等程度を示すポリプロピレン繊維を試作することができた。

(図2 ヤング率と延伸倍率の関係)
(図3 強度と延伸倍率の関係)

2.3 繊維シートの試作・評価
 上述のポリプロピレン繊維を用い,コンクリート剥落防止を想定した繊維シートについて検討を行った。コンクリート表面と繊維シートを接着する際,接着剤の浸透を良くするために,繊維シートの織組織にカラミ織と模紗織を採用し,メッシュ状の繊維シートを試作した。
 試作した繊維シートをコンクリート表面にアクリル系及びエポキシ系の接着剤でそれぞれ張り付け,旧日本道路公団(現、NECXO)規格JHS424の「はく落防止の押抜き試験方法」に準拠し,押抜き試験を行った。その結果を表1に示す。
 本規格によると1.5kN以上が製品採用の基準となり,模紗織で接着剤にアクリル樹脂を使用することで,上述の基準を満たすことができた。

(表1 押抜き試験結果)

3.結 果
 比較的安価なポリプロピレン繊維をレーザ延伸・熱処理法により高強度・高弾性率化することができた。また,高強度・高弾性率化したポリプロピレン繊維を使用した繊維シートは,旧日本道路公団規格に準拠した押抜き試験により採用基準を満たすことがわかった。
 現在,県内繊維企業および土木企業とでジオテキスタイル研究会を発足し,土木資材用繊維製品の勉強会や製品開発を行なっている。本研究の成果も研究会を通じ,さらなる技術の蓄積および製品改良を行なうことで,製品開発支援および製品普及に努めたい。