伝統発酵食品からの乳酸菌の分離と新しい機能性食品の開発

 かぶら寿し、コンカ漬け、あじのなれ寿し、いしり(いしる)など、石川県には、その風土が育んだ独特の発酵食品が多数存在します。これら発酵食品の中では、麹菌や酵母、乳酸菌等複数の有用微生物が、原料素材の成分を変化させることで風味の形成や保存性の向上のために働いています。近年、これら発酵食品中の微生物の機能性がますます注目されています。中でも乳酸菌は、ヨーグルトや漬物類などの多くの発酵食品に様々な種類が存在し、整腸作用や抗アレルギー作用といった機能性が知られています。

 工業試験場では平成21年度より、石川県立大学、金沢大学と連携し、石川県の伝統発酵食品から乳酸菌を分離するとともに、その中から機能性乳酸菌の選抜を行ってきました。また、それら乳酸菌を活用した新しい発酵食品開発に県内食品企業と共に取組んできました。ここでは、分離した乳酸菌の機能性と発酵食品開発への取組み事例を紹介します。

(1)伝統発酵食品から分離した乳酸菌と機能性

 石川県の伝統発酵食品から分離した代表的な乳酸菌の写真を図1に、これらの機能性の一例を表1に示します。


図1 伝統発酵食品から分離した乳酸菌(電顕写真)

 マウスへの経口投与試験の結果、複数の乳酸菌株で、免疫機構に関与するタンパク(IFN-γ等)や抗体(IgE,IgG等)の増減が認められ、免疫賦活(免疫力を高める)効果や抗アレルギー作用が明らかとなりました。また、血圧上昇抑制作用を持つ成分として知られるギャバ(GABA)を多量に生産する乳酸菌株も見つかりました。

表1 伝統発酵食品より分離した乳酸菌と機能性の例

 

(2)乳酸菌を用いた新しい機能性発酵食品の開発事例

図2 おこめヨーグルト

●おこめヨーグルト(図2)

 (株)福光屋(金沢市)と共同し、分離した免疫賦活作用のある乳酸菌を用いて米を原料としたヨーグルトを試作しました。蒸米を米麹によって糖化した後、乳酸菌で発酵させることで、爽やかな酸味とブドウ糖の自然な甘味を持つ発酵物ができました。工業試験場で米糖化液の発酵条件を検討した結果、1日の発酵で乳酸菌が1億個以上にまで増殖し、適度な酸味となることがわかりました。また発酵が進み過ぎると風味が悪くなるため、発酵を停止するための殺菌条件を決定しました。使用している乳酸菌は、殺菌されても健康維持効果があることが明らかとなっています。乳アレルギーの方にも対応できる栄養源豊富な機能性食品の商品化を支援しています。

図3 ブルーベリーフローズンヨーグルト

●ブルーベリーフローズンヨーグルト(図3)

 柳田食産(株)(能登町)と共に、免疫賦活乳酸菌で発酵したブルーベリーを用いて、生きた乳酸菌を摂取可能なフローズンヨーグルトの開発に取組みました。市販の生きた乳酸菌を含む商品の多くは賞味期限が長くありませんが、乳酸菌を凍結することで生きた状態を長期間維持することが可能となります。工業試験場では現場での製造工程を想定し、発酵前のブルーベリー原料の前処理条件や発酵条件を検討しました。また商品が法的な条件をクリアできるよう菌数検査の実施と試作改善のアドバイスを行い、商品化へ向けた支援を行っています。

 今後、分離した乳酸菌は地域産業活性化のために積極的に活用していきたいと考えています。これら乳酸菌の利活用にご関心のある方は、工業試験場までご連絡ください。

 

担当:化学食品部 辻 篤史(つじ あつし)

専門:応用微生物、衛生管理

一言:伝統発酵食品に学び、新商品開発へ応用します。