音響評価技術の紹介  ―遮音性能と音響パワーレベル―

 私たちの住まいや自動車内の静穏性は、ひと昔前と比べると格段に良くなっています。室外からの騒音を防ぐ壁の遮音性能と、壁が室内の音を吸収する吸音性能が向上したことや、エンジンやエアコンから発生する騒音が低下したことが静穏性に大きく貢献しています。

 壁の遮音性能や吸音性能、機器の静粛性は、音響性能試験によって評価することができます。ここでは、建築部材の遮音性測定、及び家電製品などから発生する音響パワーレベルの測定方法を最近のJIS規格とともに紹介します。

(1)遮音性能の測定方法

 建築部材の間仕切りやドア、サッシなどの遮音性能は、音源室と受音室の2つの部屋の間に試料を設置し、音源室のスピーカから出力した音が、試料を通過する際にどれだけ小さくなったのかを受音室で測定します。

 2000年に規格化された新手法[JIS A 1441-1]では、図1(a)に示すように音源室に残響室※1)、受音室に無響室※2)を使用します。試料を通過する音の強さ(音響インテンシティ)はインテンシティプローブ(図1(b))により測定されます。一方、従来法では、音源室と受音室の双方に残響室が用いられ、マイクロホンにより受音室内の平均音圧が測定されます[JIS A 1416]。

 新手法では、試料を通過する音を直接測定するため、床や地面等を通して伝わる外部からの音の影響を受けにくく、従来手法よりも正確な測定が可能です。また、音の強さの分布状態がわかるため、図1(c)に示すインテンシティマップのように遮音壁の音漏れの状態を可視化でき、高性能な遮音壁の開発に活用できます。


図1 遮音性能の測定方法(JIS A 1441-1)

 

(2)音響パワーレベルの測定方法

 プレス機械や家電製品などの騒音レベルを評価する場合、マイクロホンを用いた音圧測定が一般的によく行われています。しかし、音圧レベルは騒音源からの距離や周辺の壁など環境により値が変わってしまいます。環境に左右されず、機器から発生する音の大きさを正確に評価する手法として、音響パワーレベル測定があります。図2(a)のように無響室内で半円球状にマイクロホンを配置し、中央に置かれた機器から発生する音のパワーを測定します[JIS Z 8732]。日本ではまだ馴染みの薄い測定ですが、EU圏では1992年から、洗濯機やエアコン、テレビなどの製品を販売する際に製造認証ラベル(図2(b))記載が法律で義務付けられています。このためEU圏へ対象製品を輸出する場合には、音響パワーレベルの測定が必要であり、将来、日本国内でも製品への記載が求められることが予想されます。

 なお、吸音性能の測定には、建築データに使用される残響室を用いた方法[JIS A 1409]や、吸音材料開発に使用される音響管を用いた方法[JIS A 1405-2]があります。

これらの評価技術は、静穏性の向上を図る研究開発に役立てられています。特に最近ではクリーンな(繊維が飛散しない)吸音材料が求められており、環境面に配慮することも重要となっています。工業試験場ではここに紹介した音響性能試験の対応や、吸音・遮音性能向上に関する研究により、県内企業の技術支援を行っています。ぜひ、ご活用ください。


図2 音響パワーレベルの測定方法(JIS Z 8732)

 

担当:機械金属部 吉田 勇太(よしだ ゆうた)

専門:音響測定、機械設計

一言:製品の音響評価にご活用ください。