熱電変換による廃熱回収技術開発  ―熱電発電による新エネルギー産業の創出へ向けて―

 地球温暖化や化石燃料の枯渇化が叫ばれる中、工場等から排出される熱エネルギーを直接電気として回収する方法として、熱電変換技術が注目されています。熱電変換とは、2種類の熱電素子に熱エネルギーを与えることで直接電気エネルギーへ変換する技術をいい、熱電材料で構成される素子の両端に温度差をつけることで熱起電力が発生する「ゼーベック効果」の原理を利用した発電方法です(図1)。この技術を利用した熱電発電システムは、モーターのような機械的稼動部を持たないことから寿命が長く、またCO2の排出がなくクリーンな発電が可能という特長を持ちます。このため、現在は利用されずに捨てられている廃熱からのエネルギー回収に有利と言われています。


図1 熱電変換の概要

 工業試験場では、耐熱・耐環境性に優れるセラミックス熱電材料の合成手法およびセラミックス製熱電変換モジュールによる発電と廃熱回収への応用の検討を行ってきました(図2)。また、発電量は素子の大きさ(寸法)に依存しないという熱電変換の性質(非スケール効果)に着目し、経済産業省の地域新生コンソーシアム研究開発事業(H19)、地域イノベーション創出研究開発事業(H20)において「高集積熱電変換モジュールによる低密度廃熱回収システムの開発」というテーマで産学官連携により研究開発を行いました。この研究では、モジュール作製に新たにインプリント技術を導入して素子の高集積化を展開し、50mm角に最大612対の素子を持つ熱電変換モジュールの作製に成功しています(図3)。熱電変換モジュールは急激な温度勾配によって生じる割れ(熱応力破壊)という問題に常にさらされます。しかし、開発したモジュールは回路の構成を極限まで薄くする(10〜50μm)ことで高い破壊耐性を持つことが研究開発の中で明らかになりました。また、モジュール開発と並行して、低密度廃熱から効率よく熱回収するための集熱技術や発電した電気エネルギーを回収・利用する充放電技術などの要素技術開発を行いました。


図2 セラミックス製熱電変換モジュールの概観

図3 インプリント高集積熱電モジュール

 熱電発電システムが社会に普及するためには、熱電材料の高性能化ばかりでなく、モジュールの耐久性・信頼性の向上や充放電システムの低コスト開発など解決すべき課題があります。今後も未利用の熱源による新しい発電技術として環境問題に貢献できるよう県内企業、大学と連携しながら実用化へ向けた研究開発に取り組んでいきます。

 

担当:化学食品部 豊田丈紫(とよだ たけし)

専門:無機材料、構造物性

一言:石川県が熱電技術の拠点になる日を夢見ています。