表面処理製品・金属材料の耐食性試験  ― 塩水噴霧試験の方法とステンレス鋼の耐食性 ―

 工業製品は様々な環境下で使用されるため、耐食性を確認し、材質の適性を評価する必要があります。JIS(日本工業規格)では、耐食性を評価するため、幾種類もの試験方法が規格化されていますが、製品規格として、どの方法で、何時間試験するかまでは定めていません。そこで重要になるのが、試験方法の選択と試験時間の設定です。ここでは、よく用いられる3種類の塩水噴霧試験方法とその選択基準、近年増してきたステンレス鋼の耐食性評価事例について紹介します。

1.塩水噴霧試験の方法

(1)中性塩水噴霧試験
  35℃に保った試験槽内で、試料を鉛直線に対し約20°傾け、試験液(中性に調整した5%の食塩水)を霧状に連続噴霧することで耐食性を評価する試験です。
  この試験は、食塩水を用いた耐食性試験の中では、比較的マイルドな条件であり、最も多く用いられています。

(2)キャス試験
  中性塩水噴霧試験の試験液に酢酸(pH3.0に調整)と銅イオンを加え、試験温度を50℃に設定して行う試験です。
  この試験は、塩水噴霧試験の中で、最も過酷な試験に位置づけられており、厳しい腐食環境下で使用される材料の評価によく適用されています。

(3)複合サイクル試験
  中性塩水噴霧試験条件下で、噴霧、乾燥、湿潤の雰囲気に試料を順次暴露し、これを繰り返し行う試験です。
  この試験は、実際に屋外で使用した場合と相関関係が得られやすく、近年適用が増加しています。腐食の進行は中性塩水噴霧試験より早くなります。

2.試験方法の選択基準

 自動車業界のように業界が基準を設けている場合や、納入先に基準がある場合を除いて、一般的には表に示した基準をもとに、依頼者と試験方法や時間を決めています。なお、これらの試験では実環境下での耐用年数の推定は困難ですが、疑似環境であれば、材料間の相対評価の指標が得られます。

3.ステンレス鋼の耐食性評価事例

 近年、ステンレス鋼の高騰により、メーカーではより安価なステンレス鋼へ代替する傾向がみられます。具体的には耐食性の優れたSUS304をクロムの含有率が高いHi-CrステンレスやSUS430相当材へ代替する検討がなされています。これら材料の耐食性を評価する場合、中性塩水噴霧試験よりも腐食の進行が早いキャス試験や複合サイクル試験を用いることが効果的です。また、ステンレス鋼に曲げ加工や溶接を施して、試験に用いることも材質の評価に有効です。
  これらの材料について耐食性を評価したところ、SUS304とHi-Crステンレスはほぼ同等の耐食性が得られ、SUS430は全般的に耐食性が劣ることが確かめられています。

 工業試験場では、中性塩水噴霧試験とキャス試験について対応しています。なお、近年の依頼傾向としては、
1.自社開発した製品の耐食性評価
2.より安価な海外製材料の耐食性評価
3.代替ステンレスの耐食性評価
4.3価クロメートの耐食性評価
といった内容が多く寄せられています。試験を検討される際は、お気軽にご相談ください。


表 試験方法の選択基準
※自動車業界では72時間の中性塩水噴霧試験で白錆なしのこと。

 

担当:化学食品部 井上智実(いのうえともみ)

専門:微生物工学、表面処理

一言:耐食性試験は材質の評価に重要な試験です。