ユニバーサルデザインの攻略
〜医工学連携による新たな人間工学の探求と応用〜

図1 UDに必要な新たな人間工学

図2 医工学連携プロジェクト

図3 公衆情報端末機のUDプロセス

図4 これまでの研究指導成果
 高齢福祉社会の進展により、各省庁から情報通信機器やWebのアクセシビリティ指針、ハートビル法、交通バリアフリー法などが相次いで公示、施行されたため、現在、さまざまな業界でユニバーサルデザイン*(以下、UD)、すなわち「誰もが安全で快適に利用できる製品や住環境の設計」が重要課題になっています。ところが、企業の設計現場では、UDの理念は理解できても実際にデザインを進めようとすると、高齢者や障害者の身体特性が把握できず、困難をきわめているようです。つまり、これまでのデザインは、健常者を中心とした身体データを参考にすればよかったわけですが、UDの場合は、高齢者や障害者を含めた新たな人間工学(図1)が必要になり、それが未だ確立されていないからです。
 このため工業試験場では、県リハビリテーションセンターおよび土木部との医工学連携研究プロジェクト「バリアフリー推進工房(図2)」において、高齢者や障害者の身体特性データ蓄積、製品・住環境との適合評価研究、具体的なUD製品・住環境の研究開発などを行っています。
 例えば、公衆情報端末機のUD研究開発(図3)では、次のようなプロセスを経ましたが、従来と大きく異なる点は、医療専門職の技術と知見によって、これまで不透明であった障害者の身体特性や操作能力のほか、障害に応じた評価手法やインターフェースなどの必要性が明らかになってきたことです。
(1) 課題抽出:障害の種類や程度が異なる被験者によって既製品の使用テストを行い、本体や操作部の形状、画面デザインなどの問題点を整理した。
(2) 実験環境整備:問題となった車いす進入空間、操作部の高さ、範囲、角度などを改善検討できる評価用モデルを製作した。タッチパネルは、上肢障害や視覚障害に対応するインターフェースを設計提案した。
(3) 設計条件抽出:被験者テストによって最適操作環境の許容範囲を求め、UDの設計条件を整理した。
(4) 検証実験:設計条件に基づいて試作品を製作し、被験者によって最終的な操作適合確認を行った。
(5) 製品化:企業において製品設計・製作を行い、現在、石川県庁舎で実用化検証を行っている。
 このほか、工業試験場のUD関連研究・指導成果には、試着室、建具、石川県庁舎(トイレ、エレベータ、サイン他)、道の駅などがあり(図4)、現在は色覚障害者に対応した視認性向上の研究も行っています。
 UDは、多岐の産業分野に渡る技術課題であり、また、高齢者がピークにさしかかる2015年までに解明すべき課題が山積しているため、工業試験場では本研究分野に今後とも積極的に取組もうと考えています。

UDは、欧州のノーマライゼーション思想に起源があると言われており、1990年、米国ノースカロライナ州立大学の研究所長であった故ロン・メイス氏がUD7原則を提唱したことから急速な勢いで広がった設計思想。


担当 電子情報部 高橋哲郎(たかはしてつろう)
専門 工業デザイン、福祉工学
一言 福祉科学担当では、高齢福祉社会における製品・住環境のあり方について企業と共に考えます。



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