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乳幼児と子育てのための繊維製品の開発研究

■繊維生活部 杉浦由季恵 松山治彰 餘久保優子 守田啓輔

 安心して子育てのできる環境の整備や質の高い子ども用品が求められ,県内繊維業界においてもこの分野での製品開発が強く望まれている。本研究では,新しいギフト市場として期待されている,祖父母から孫へ親から子へという高級品市場に対応した製品開発支援として,加賀友禅技法と小松絹織物を組み合わせた「おくるみ」10点の試作を行った。さらに,聞き取り調査の意見を基に,改良試作2点と「ケープ」,「ポンチョ」へのリメイク2点を行い,製品化への検討を行った。
キーワード: 繊維製品,子供用品,おくるみ,加賀友禅,小松絹織物

Development of Textile Products for the Care of Babies and Children

Yukie SUGIURA, Haruaki MATSUYAMA, Yuko YOKUBO and Keisuke MORITA

As a result of the demand for a safe environment for raising children and for high-quality children's goods, Ishikawa's textile industry is expected to develop products in that area. In this research, we produced 10 pieces of okurumi (baby wraps) which combined the Kaga Yuzen technique with silk fabrics made in Komatsu, corresponding to the new markets for high-quality products given as gifts by grandparents or parents to a child. Furthermore, based on our investigations, we examined for manufacture by improving four trial pieces - two pieces of okurumi, a cape and a poncho -.
Keywords : textile products, products for children, okurumi, traditional techniques, Kaga Yuzen, Komatsu silk

1.緒  言
 平成18〜19年度に,県内のハイテク素材・加工技術と伝統工芸技術を用い,ファッション性に富んだ高品質な繊維製品の開発を行った 1)。この研究評価の調査において,安心して子育てのできる環境の整備や質の高い子ども用品が求められ,県内繊維業界においてもこの分野での製品開発が強く望まれていることや,高級ギフト市場として,祖父母から孫へ親から子へという新たなマーケットが,次のテーマとして見えてきた。
 このため,高級品市場に対応した繊維製品の開発支援に向け,加賀友禅技法と小松絹織物を組み合わせた「おくるみ」の製品開発に取り組んだので,その研究成果を報告する。

2.内  容
 本研究を進めるにあたり,平成20年度は県内の絹織物素材及び加飾技法,百貨店,専門店の売り場調査,さらに子供用品の専門家への聞き取り調査を行い,開発の方向性と領域を「和を感じるモダンな製品」に設定した2),3)。次に,小松絹織物をベースに加賀友禅をワンポイント加飾した「ベビードレス」と「おくるみ」のデザイン提案を行い,絹織物の選定,加賀友禅技法を用いた加飾,縫製は角のない優しい仕上げをした「おくるみ」10点を試作した。
 平成21年度は試作した「おくるみ」について聞き取り調査を行い,その意見を基に,洗濯の取り扱いを考慮したものや,友禅柄をふんだんに加飾した華やかで豪華なもの,リメイクできる「おくるみ」の試作提案を行った。

2.1 開発の方向性
  乳幼児と子育てのための繊維製品の開発にあたり,子供用品売り場の状況調査と,キッズデザインの専門家や百貨店,専門店関係者に聞き取り調査を行い,イメージマップ(図1)にまとめ,開発領域と方向性の絞り込みを行った。
 聞き取りや売り場の調査では,高級な乳幼児用品は,世界の一流ブランドが多く,和を感じる製品は「一つ身」や「四つ身」といったお宮参りや七五三などの行事に使用する伝統的な和装用にとどまっていた。
 この事から,図1に示すように乳幼児と子育てのための安心で快適な繊維製品,さらに新しいギフト市場として期待されている,祖父母から孫へ親から子へという高級ギフト市場に対応した,和風でモダンな質の高い製品が求められていることを確認した。

(図1 開発領域や方向性の絞り込みイメージマップ)

2.2 織物素材と加飾技術の特徴
 小松絹織物と加賀友禅の織物素材と加飾技術の特徴は,以下の通りである。
 小松地区は加賀絹の発祥地と言われ,古くから絹織物が盛んに作られてきた。明治 35年にはジャカード機による紋織物が始めて製織された。この紋織物は,たて糸一本一本の緻密な上げ下げでよこ糸を織り込み,模様を表現する。さらに糸の撚りや太さに変化を付け,様々な風合いや味わいのある織物を作り上げている。
 絹を素材とした,ふんわりとしたやさしい風合いは,肌にやさしいのが最大の特徴で,日本を代表する襦袢地の産地として,関西の問屋を経由して全国各地の織物産地に届けられていた。さらに本絹和装用織物や高級ファッション衣料素材まで幅広く用いられている。乳幼児と子育てのための快適な繊維製品の開発には,肌にやさしい素材を使うことは大変相応しい。
 加賀友禅は加賀百万石の武家文化の中で培われ,手描の加飾表現や技法では,線の太さやぼかし,虫喰いなど自然美を巧みに表現している。糸目糊の技法は挿色の防線が主目的だが,水で洗い落とすと草花の葉筋や水の流れなど繊細な白い線が浮かびあがり,装飾効果を高めている。型染は加賀小紋など古くは裃の模様として用いられ,格式の高いものとされている。
 加賀友禅は手描きや型染めによる,華やかで繊細な加飾技法を施した日本を代表する高級和装着物として,伝統の美しさがあることが大きな特徴である。
 小松絹織物と加賀友禅は,同じ石川県内の和装関連業界であるが,使用される領域や流通経路が異なっている事から接点はなかった。
 このため本研究では,小松絹織物の絹を素材とした肌にやさしくふんわりとした風合い,加賀友禅の華やかさと緻密な技法に裏打ちされた気品や品格という,双方の特徴を生かして,和風でモダンな質の高い乳幼児と子育てのための開発を行うこととした。

2.3 デザイン提案
 開発領域の設定や織物素材と加飾技法の調査を基に,具体的に「着る」,「食べる」,「寝る」,「遊ぶ」,「お出かけ」の生活シーン別に製品を拾いだし,その中から絹織物の風合いの良さと加賀友禅の加飾を効果的に表現できるものとして,製品開発テーマは「おくるみ」と「ベビードレス」とした。そして図 2,3のアイデアスケッチのデザイン提案を行った。

(図2 「おくるみ」アイデアスケッチ)
(図3 「ベビードレス」アイデアスケッチ)

2.3.1 おくるみ
 織物素材は,小松絹織物(絹100%)を2枚重ね合わせ,内側にはふんわりとしたワッフルやふくれ織りによる織物素材を用い,外側は加賀友禅技法による加飾を施すため,表面がフラットなサテン地や梨地の織物素材を使用することとした。
 加賀友禅技法によるワンポイント模様の加飾は,母親が子供の安全や健やかな成長を願う背守りの「加賀紋」や「押し絵紋」とした。
 配色については,ぼかし柄などの特徴を生かすため,柔らかくふんわりした色使いを提案した。
 サイズや縫製については,たて85p,よこ85p,周囲の縁は四隅の角をアールでパイピング(縁取り)仕上げで加工し,やさしいイメージとした。

2.3.2 ベビードレス
 織物素材は小松絹織物(絹100%)を用い,加賀友禅技法による繊細な加飾が可能なサテン地とした。友禅技法による加飾は「おくるみ」と同じくワンポイントの模様,配色も柔らかなカラーでやさしいイメージ,サイズは着丈80〜90pとすることを提案した。

2.4 試作
 図2,3のアイデアスケッチのデザイン提案を基に,小松絹織物を使用し,染付は加賀友禅染色団地の10人の染職人に依頼し,それぞれの持ち味を生かした,ワンポイントの模様を施した10点の「おくるみ」図4(A〜J)を試作した。

(図4 試作した「おくるみ」)

2.5改良に向けた聞き取り調査
 試作した「おくるみ」10点の製品化のために,評価と改良に向けた聞き取り調査を行った。県内の展示会や研究会,研究発表会で子育て中の母親や孫を持つ祖父母,加賀友禅染色団地,小松繊維企業等へ「おくるみ」の開発概要の説明と紹介を行った(表1)。さらにキッズ用品を手がけるデザイナーの意見も得た。
 その結果,開発意図や表現技術,肌触りや風合いは大変好評を得た。また乳児への使用試験でも好評であった。改良に向けた意見としては,洗濯による縮みや色の変化など,取り扱いについて心配する意見があった。その他に,短い期間しか使用できないため「おくるみ」だけに止めず何か違うものにリメイクできないか,子供の大切な思い出として記念に残しておきたい,石川の伝統を感じさせるために加賀友禅技法をワンポイントではなくふんだんに使った豪華なものも欲しいという意見もあった。

2.6 改良試作
 聞き取り調査の意見を基に,石川の伝統を感じさせるものや洗濯を考慮したもの2点(図5),リメイクが可能な「おくるみ」2点(図6)の改良試作を行った。

(図5 改良した「おくるみ」)
(図6 リメイクした「ケープ」と「ポンチョ」)

2.5 改良に向けた聞き取り調査
 試作した「おくるみ」10点の製品化のために,評価と改良に向けた聞き取り調査を行った。県内の展示会や研究会,研究発表会で子育て中の母親や孫を持つ祖父母,加賀友禅染色団地,小松繊維企業等へ「おくるみ」の開発概要の説明と紹介を行った(表1)。さらにキッズ用品を手がけるデザイナーの意見も得た。
 その結果,開発意図や表現技術,肌触りや風合いは大変好評を得た。また乳児への使用試験でも好評であった。改良に向けた意見としては,洗濯による縮みや色の変化など,取り扱いについて心配する意見があった。その他に,短い期間しか使用できないため「おくるみ」だけに止めず何か違うものにリメイクできないか,子供の大切な思い出として記念に残しておきたい,石川の伝統を感じさせるために加賀友禅技法をワンポイントではなくふんだんに使った豪華なものも欲しいという意見もあった。

(表1 試作した「おくるみ」の展示会等での発表)

2.6 改良試作
 聞き取り調査の意見を基に,石川の伝統を感じさせるものや洗濯を考慮したもの2点(図5),リメイクが可能な「おくるみ」2点(図6)の改良試作を行った。

3.結  言
 本研究において小松の絹織物素材と加賀友禅技法を組み合わせた「おくるみ」10点の試作と,聞き取り調査の意見を基に改良した「おくるみ」2点,さらにケープとポンチョにリメイクした2点を試作した。今後,パッケージのデザイン指導などを支援する。

謝  辞
  本研究を遂行するにあたり,ご協力を頂きましたキッズデザイン研究会,協同組合加賀友禅染色団地,関康子氏((有)トライプラス ),田中智子氏 ((株)三越),國本桂史氏(名古屋市立大学大学院教授 )に感謝します。

参考文献
1) 杉浦由季恵, 松山治彰 , 餘久保優子 , 森大介 . 伝統的技法を取り入れた繊維製品の開発 . 石川県工業試験場研究報告. 2008, no. 57, p. 39-42.
2) トライプラス. 世界のおもちゃ100選. 中央公論新社 , 125p.
3) ロハスキッズ. 株式会社木楽舎 . 2007, vol. 4, 96 p.