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ろくろ成形用白磁坏土の量産化研究

■九谷焼技術センター 佐々木直哉 若林数夫

 本研究は,平成15〜16年度にかけて開発を行ったろくろ成形用白磁坏土の実用化を目指し,実際に2製土所にて量産化試験を行った。目標とする調合(ゼーゲル数SiO2 : 14〜16,Al2O3 : 2.5〜3.0,分析値Fe2O3+TiO2 : 0.5〜0.7wt%)に従い,管理項目を挙げて試験を行った。2製土所とも約1トンの量産化を行い,目標とする坏土が完成した。
キーワード:ろくろ成形,白色度,花坂陶石,磁器坏土

Mass Production of Jiggering White Porcelain Bodies

Naoya SASAKI and Kazuo WAKABAYASHI

This research carried out the mass production of jiggering white porcelain bodies developed from 2003 to 2004 at two porcelain bodies manufacturer. It examined according to the mixture (Seger number of SiO2 : 14〜16, Al2O3 : 2.5〜3.0, and chemical analysis value of Fe2O3+TiO2 : 0.5〜0.7wt%). Mass-producing porcelain bodies of about 1t were completed at two porcelain bodies manufacturer.

Keywords:jiggering, whiteness, Hanasaka pottery-stone, porcelain body

1.緒  言
  九谷焼の坏土の中でろくろ成形用坏土は,特に成形性が重要となるため,花坂陶石の水簸物(すいひぶつ)が欠かせない原料となる1)。しかし花坂陶石の水簸物のみでは耐火度が低い(SK11 1320℃)ため,木節,蛙目粘土を添加し調整されている。花坂陶石の水簸物にはFeが多く,木節,蛙目粘土にはFe,Tiが多く含まれているため,焼成するとねずみ色がかった素地となる。九谷焼の特徴である上絵加飾には合っており根強い人気がある。一方で多品種化の流れから,業界としてもこの焼成色を白くし,ろくろ成形による手作りならではの様々な加工を施すことにより,高品質で高付加価値のある商品を作ろうという強い要望があった。そこで平成15〜16年度にかけて当センターにてろくろ成形用白磁坏土の開発2)を行った結果,業界でも高い評価を受け,実際に実用化に向けた動きとなった。
平成17年度は,昨年度までの基礎データをもとに実用化に向け,実際に業界で量産化を行い,管理項目をあげて安定した坏土の供給を目指し,技術移転を目的とする。

2.実験内容
2.1 坏土の試作
坏土の量産化については,技術移転先である谷口製土所,二股製土所にて行った。平成15〜16年度にかけて行われたろくろ成形用白磁坏土の開発における基礎データを基に量産化試験を行った(図1,表1)。配合割合については、花坂陶石(75μm以下)が60wt%,福島珪石が10wt%,中国カオリンが30wt%を基準とし、花坂陶石の水簸物と中国カオリンの化学組成の分析結果から,目標とする調合(表2)に従い配合割合の微調整を行った。花坂陶石水簸物のミル粉砕については,所定の時間でサンプルを採取し,粒度を測定して粉砕時間の調整を行った。最終的な坏土の物性については,200meshのフルイを通した後にサンプルを採取し,化学組成,粒度,耐火度等の測定を行った。以上のような製造方法と管理項目(図2)により乾燥重量で約1トンの調合計算を行い,坏土を試作した。
(図1 試作坏土(試験場))
(表1 試作坏土(試験場)の調合及び物性)
(表2 調合の目標値)
(図2 坏土の製造方法と管理項目)

2.2 坏土の評価
管理項目における化学組成の分析については,ガラスビード法を用いてガラスビードを作製し,蛍光X線分析装置(理学電機(株)製,システム3270E,50kV,50mA)で定量分析を行った。また粒度については目開きが20μmのフルイを通し,残った試料のwt%を測定した。耐火度については,JIS R2204(耐火物及び耐火物原料の耐火度試験方法)に従い測定を行った。白色度については,径72mm,厚さ7mmの石膏型で押し型成形により円盤状のテストピースを10枚作成し,施釉せず1300℃の還元焼成を行った。その後,分光測色計(MINOLTA製,CM-3600d)を用いて白色度ハンターの値を測定し,10枚の平均値とした。成形性の評価および試作品については,石川県九谷窯元工業協同組合の(有)アズマ製陶所,加賀九谷陶磁器協同組合の妙泉陶房に依頼して行った。

3.結果及び考察
谷口製土所,二股製土所とも目標とする坏土が完成した。白色度については,2製土所とも75±3の範囲内であり,Fe2O3+TiO2の濃度も目標とする調合(0.5〜0.7wt%)の範囲内であった(図3)。耐火度については,2製土所ともSK27であり,Al2O3のゼーゲル数も目標とする調合(2.5〜3.0)の範囲内であった(図4)。このことから原材料である花坂陶石の水簸物と中国カオリンの化学組成の分析を行い,その結果から目標とする調合に従い配合割合を微調整することで目標とする坏土ができることがわかった。また花坂陶石を水簸後,ミルで粉砕し粒度調整を行うことで2製土所とも焼成後の欠点となる黒ボツ等が少なくなった(図5)。成形性については,窯元2社とも十分な評価を頂き,試作品もろくろ成形による小皿や大皿,型打ち成形による鉢など手作りによる様々な成形に対応することができた(図6,7)。小皿と鉢については10枚試作し、10枚とも欠点なく仕上がった。完成した坏土については,平成18年の4月から谷口製土所,二股製土所にて販売を行っている。
(図3 Fe2O3+TiO2(wt%)と白色度の関係)
(図4 Al2O3のゼーゲル数と耐火度の関係)
(図5 花坂陶石の水簸物をミルで粉砕しなかった坏土(a)とミルで粉砕した坏土(b)の焼成後のテストピースの表面状態(×1.2))
(図6 試作品((有)アズマ製陶所))
(図7 試作品(妙泉陶房))

4.結  言
(1)2製土所で量産化した坏土の調合の目標値は,SiO2とAl2O3のゼーゲル数がそれぞれ14〜16,2.5〜3.0で,Fe2O3+TiO2の化学分析値が0.5〜0.7wt%となった。
(2) 2製土所で量産化した坏土の白色度は,75±3の範囲内であり,耐火度はSK27であった。
(3) 2製土所で量産化した坏土の成形性は,窯元2社とも十分な評価を頂き,試作品もろくろ成形による小皿や大皿,型打ち成形による鉢など手作りによる様々な成形に対応することができた。
(4)完成した坏土については,平成18年の4月から谷口製土所,二股製土所にて販売を行っている。

謝  辞
  本研究を遂行するにあたり,量産化試験にご協力頂いた谷口製土所,二股製土所の皆様ならびに,試作品や成形性の評価にご協力頂いた(有)アズマ製陶所,妙泉陶房の皆様に感謝します。

参考文献
1)佐々木直哉.石川県工業試験場研究報告.2003,p.59-64.
2)佐々木直哉,若林数夫.石川県工業試験場研究報告.2005,p.73-76.