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 廃ガラスのタイルへのリサイクル技術に関する研究
  中村静夫* 七山幸夫** 大田剛志***
    *化学食品部 ** 機械電子部 ***ニッコー

 石川県内から発生する廃ガラスカレット,浄水場発生土,フライアッシュ及び陶磁器屑の廃棄物を原料としたタイルの製造技術について検討した結果,以下の結論が得られた。
1)高温及び低温タイプのタイル製造に於ける最適配合は,高温タイプに関してはカレット5%,浄水場発生土30%,フライアッシュ35%及び陶磁器屑30%であり,低温タイプではカレット36%,浄水場発生土40%及びフライアッシュ24%であることが判った。
2)上記2種類の試作タイルは,JIS A 5209を十分に満たすものであり,100%リサイクルタイルの製造が可能であった。
キーワード:廃ガラス,リサイクル技術,タイル

Research on the Recycling Technology of Abolishing Glass to the Tile

Shizuo NAKAMURA, Yukio NANAYAMA and Takeshi OHTA
   
A study has been carried out in order to examine the suitability of glass cullet, water purifying plant generation soil, fly ash and a waste off the pottery chip that are being disposed off in Ishikawa Prefecture of a raw material for the tile manufacturing. Following conclusions were obtained.
1) It was proved that optimum mixtures of tile raw material of the high-temperature type were cullet 5%, water purifying plant generation soil 30%, fly ash 30% and pottery chip 35% and that optimum mixtures of tile raw material of the low-temperature type are cullet 36%, water purifying plant generation soil 40% and fly ash 24%.
2) The physical property of produced tile sufficiently satisfied JIS A 5209 standard, and it was confirmed that the manufacture of the tile which consists of a 100% waste was possible.
Keywords:abolishing glass, recycling technology, tile


1.緒  言
 平成9年4月から容器包装リサイクル法に伴い,県内の市町村においてガラス・びん類をはじめとした廃棄物の分別収集がなされている。県内でのガラス・びん類の回収量は,平成9年度で8366t(54.6%),平成10年度で8573t(55.6%),平成11年度で8081t (52.3%)であり、大きな変動を示していない。括弧内に示した数値は回収率である。また,平成12年度には,排出見込み量の46.0%にあたる8321tの回収が見込まれているが,回収率は減少傾向を示している。このことは,回収する側よりも,リサイクル側での用途開発が遅れていることにも起因していると考えられる。従って,石川県でもガラス・びん類をはじめとした廃棄物のリサイクル技術の確立,リサイクル率の向上についての検討が迫られている1)。
この様な状況下で,石川県内においても平成10年度から県内発生する廃ガラスをカレット化する動きがあるが、その用途開発など解決すべき技術的課題も多い。そこで,工業試験場では,産学官連携により廃ガラスカレット(以下、カレット)の用途拡大を目的とした研究開発を推進してきた。本報告では,タイル原料への有効利用について検討した結果について報告する。

2.実験内容
 2.1 使用カレット
 容器包装リサイクル法の施行以後,県内で資源ゴミとして収集されたガラス・びん類の中で透明,茶色びんに関しては再度びんへリサイクルされる比率は高い。しかし,黒や緑色のびんが混在するカレット(以下,有色込みカレット)は含有する顔料により再利用が難しく,有効活用されていないのが現状である。従って,有色込みカレットの利用方法が大きな課題となっている。そこで,有色込みカレットをタイル素地の原料として利用する観点から,カレットを前処理せず直接使用する技術,市販タイル用原料と同様の処理方法で使用する技術及びタイルの釉薬として使用する技術について検討した。

2.2 未処理による原料化
2.2.1 成形試験
 カレットを市販のタイル窯業原料と比較すると,粒子径が粗く,可塑性を示さない砂や砂利に近い。従って,混合割合によって組成,品質が安定しないことが考えられる。そこで,可塑性を有する原料との混合・成形を行う場合のカレットの粒度が成形性に及ぼす影響を検討した。
成形には,市販タイルの生産ラインで使用している全自動プレス機(鞄型製;RNH-600A)を用いた。
 試験用坏土には,粒径5mm,2mm及び0.6mm以下の青色カレットに市販タイル用原料を添加したもの,つまりカレットと市販タイル用坏土とを重量比で70:30〜40:60に調合してビニール袋内で乾式混合したものを用いた。成形寸法は150mm角で厚さ10mmとし,プレス圧19.6MPaで成形した。その成形体を実装ラインで搬送し,その時の割れや欠け等の欠点の有無を目視で確認し,成形良否について評価した。
表1に試験用坏土の混合比を示す。なお,各組成毎に8個の成形体を作製した。
2.2.2 焼成試験
表1 試験用坏土の混合比

カレットは,アルカリ金属類を含み,融点が一般の坏土より低く長石やフリットと同一視される。また,カレットの色により化学組成が異なると考えられたことから,混合量によって組成,品質が安定しないことが考えられる。そこで,色別材料による焼成条件を把握する必要がある。
焼成試験では,0.6mm以下の茶及び黒色カレットを用い,市販タイル用坏土と1:1で乾式混合したものを試験用坏土とした。試料をプレス機(且R本水圧工業所製;APP-20)で19. 6MPaにて100mm角に成形した。電気炉を用い焼成温度1050,1080,1100及び1150℃で焼成した。焼成温度毎に4個の成形体を作製した。これらタイルの物性評価は,JIS A 5209に準じて行い,収縮率,吸水率及び曲げ強さを測定した。

2.3 粉砕処理による原料化
2.3.1 高温タイプの調合
 粒度調整のためカレットを粉砕処理せず市販タイル坏土と混合して磁器質タイルを作製した場合,強度が低下し,JIS規格を満足することが難しいと考えられる。また,従来の生産設備へ新たな設備の追加が必要であり,現状では量産化が困難であると考えられる。
 そこで,市販タイル用坏土が製造される同じ方法,即ち原料の粉砕工程を経て粒度調整後に用いる方法で坏土を作製し,従来のタイル焼成設備に適した耐火度を有する試験用坏土の調合試験を行い,最適な配合条件を求めることとした。なお,焼成温度は磁器質タイルの焼成が行われる温度である1250℃とした。
 既往の試験より,成形性を考慮した場合,浄水場発生土の使用量は30%以上が望ましいと報告されている2)。しかし,使用量が増えることで,焼成収縮の増加に伴う寸法のバラツキ及び呈色の悪化が問題となる。従って,1250℃で焼成する場合,浄水場発生土使用量は,成形性を考慮し全体の重量比で30%とした。また,坏土へのカレット使用量は,リサイクルの観点から多い方が望ましい。しかし,焼成温度が1250℃であることと既存坏土の長石分の置換原料としていることを考慮し,15%を上限とした。さらに,カレットの融点が低いことから耐火度を低下させると考えられので,融点の高いアルミナ分を多く含有する陶磁器屑を耐火度調整用に加えた。
 高温タイプ坏土試験の調合を表2に示す。ポットミルに原料を投入し,水分37.5%,解膠剤0.3%となるよう調整し,3時間粉砕した。得られた泥漿を所定の水分まで石膏型で脱水し,湿式プレス機で60mm×40mmに成形し試験体を作製した。試験体を1250℃で焼成した後,吸水率を測定した。最適配合条件は吸水率により評価した。また,物性評価のための試験体は最適調合条件の坏土でバリカキを作製し,プレス機で19.6MPaにて100mm角に成形し,1250℃で焼成した。その後の収縮率,材料曲げ強度及び曲げ強さを測定した。試験体個数は吸水測定用で8個とし,収縮及び曲げ強さ測定用では16個とした。吸水率は試験体を沸騰水に2時間浸漬後,冷水中に1時間保持する方法である2時間煮沸法で測定した。なお,強度評価はJIS A 5209に準じて行った。
2.3.2 低温タイプの調合
 焼成温度が1050℃であること及び長石分の置換ということを考慮し,カレット使用量の下限を30%及び上限を50%とした。浄水場発生土は,前節での記述のとおり成形性の面から30%以上が望ましいので140%とした。
焼成温度を考慮すると,収縮及び発色の面で上限は40%と考えられる。従って,本試験では浄水場発生土の添加率を40%に固定した。
低温タイプ坏土試験の調合を表3に示す。試験坏土の作製,成形法及び焼成試験体の物性評価は前節で記述したものと同一手法で行った。焼成温度のみを1050℃とし,耐火度調整を目的とした陶磁器屑の添加は不要であった。

2.4 釉薬化
カレットは釉薬原料のフリットの組成に近く,その代替材料として使用することで,より多くのカレットの消費が可能と考えられる。しかし,カレットをタイル用釉薬として用いるためには,タイル素地との適合性の検討が必要である。そこで,本節では1250℃で焼成する高温タイプ及び1050℃で焼成する低温タイプのタイル釉薬の最適調合条件について検討した。
高温タイプ用としては,2mmの青色ガラス及び蛙目粘土の配合比を変化させて用いた。混合した原料を,ポットミルで水分40%にして20時間粉砕した。
一方,低温タイプには,2mmの青色ガラスと蛙目粘土を重量比で95:5で配合して用いた。配合した原料を混合し,水分40%で20時間粉砕しカレット泥漿を作製した。この泥漿に既存釉薬を混合し低温タイプの釉薬とした。各々の釉薬を市販タイルの素地に施釉し焼成後のタイル釉面,反り及び貫入について目視により観察し、良否を評価した。
高温タイプ用釉薬及び低温タイプ用釉薬の各調合を表4及び表5に示す。

3.結果と考察
表2 高温タイプ坏土の調合比

表3 低温タイプ坏土の調合比率

3.1 化学組成
 使用したカレットの化学組成を表6に示す。カレットの色別による主成分であるシリカ成分,アルカリ・アルカリ土類成分の変動については,大きな変動が認められない。しかし,顔料であるCo等の重金属の含有に顕著な差が認められる。
表4 高温タイプ用釉薬の調合

表5 低温タイプ用釉薬の調合

3.2 未処理による原料化
3.2.1 成形性
 カレット添加率と成形能の関係を表7に示す。
なお,以下に記す市販タイル用坏土とは150mm角タイルに用いられている磁器質床タイル用坏土である。
表6 カレットの化学組成    (wt%)

表7 カレット添加率と成形性
注)×:成形後タイルを取り出す際に崩れる。
△:成形可能であるが搬送時に欠けや割れが起きる場合がある。
○ :成形及び搬送可能。


1050℃      1080℃

1100℃        1150℃
図1 試作タイルの概観図
表7より,カレット自身には可塑性がないため粘土を含んだ市販タイル坏土を多く添加すると成形性が改善されることが判る。また,カレット粒度の相違でも成形性が大きく変化し,カレット粒径が小さい方が,成形性が良いことが判る。これは,カレット相互間の結合力が劣ることに原因があるものと考えられる。また,これらの結果から,タイル坏土の主原料として用いる場合,粒径が0.6mm以下のカレットを用い,カレット添加率が50%以下であることが望ましいことが判った。
3.2.2 焼成体の物性
図1に黒色カレットを使用したタイルを示す。図から焼成温度1150℃では,一部熔融していることが判る。
焼成温度による収縮率,吸水率,曲げ強さの変化を各々図2〜図4に示す。焼成温度1150℃では,熔融が起こり収縮率等の物性評価は不可能であった。
図2〜4に示した試験結果より,焼成温度が1100℃では熔融が認められる。従って,1080℃と1100℃の間で熔融開始することが判った。また,カレットの熔融開始温度と市販タイル用坏土の焼結温度は,それぞれ700℃程度(熔融温度)及び1250℃程度と異なる。従って,試作したタイルを磁化させることは困難であるが,陶器質タイルを得るには1080℃焼成が最適であると考えられる。


3.3 粉砕処理による原料化
3.3.1 高温焼成

図2 焼成温度による収縮率の変化
表8に高温タイプ試験体の吸水率を示す。表8より,磁器質タイルが得られる条件は,カレット添加率5%であり,それ以上の添加すると発泡及び熔融傾向が認められた。
 表9に焼成収縮率,材料曲げ強度及び曲げ強さを示す。焼成収縮率及び曲げ強さは試験体No.3の試料で測定し,市販タイル用坏土で100mm角に成形した試験体についても測定し比較を行った。

図3 焼成温度による吸水率の変化

図4 焼成温度による曲げ強度の変化
表9より,収縮率は11%程度であることが判った。また,市販タイル用坏土を用いたタイルと曲げ強度,曲げ強さを比較した場合,市販のものより高強度を示し、JIS規格を満足するものであった。
3.3. 2 低温焼成
表10に低温タイプ試験体の吸水率を示す。表10より,磁器質タイルが得られる条件は,カレット添加率40%程度であり,それ以上カレットを増加しても熔融は起こらず光沢が認められる程度であった。このことから,低温焼成の場合ある程度カレット添加量が増加しても熔融現象が発生しないことから,カレットを原料として他の廃棄物より多く利用できることが判った
表8 高温タイプ試験体の吸収率

表9 高温タイプ試験体の物性

表10 低温タイプ試験体の吸水率

表11 低温タイプ試験体の物性

(40)   (45)  (50)   (55)  (60)
100mm

                   
図5 高温用釉薬の焼成後の外観


(60)  (55)   (50)   (45)  (40)
                  100mm
図6 低温用釉薬の焼成後の外観
表11に試験体No.4の焼成後の物性を示す。表には市販タイル用坏土で100mm角に成形した試験体の物性も比較の意味で示した。
 表11より,焼成収縮率は8.87%であり,市販のものより焼き締まりが進んでいないことが判る。また,曲げ強度は市販のものと比較し40%程度低い。しかし,JISで規格されている曲げ強さ即ち1cm幅の曲げ破壊荷重は市販のものと比較し30%程低いが,十分にJIS規格値120N/cmを満足するものであった。

3.4 釉薬への応用
図5,6に釉薬への応用した試験体表面を示す。図中の括弧内の数値は各々カレット添加量及びカレット泥漿添加量を示す。
高温用では調合No.1(カレット60%+粘土40%)で光沢が認められるが,粘土の添加率増加に伴い釉面は結晶化し,カレット添加率50%以下の釉薬から反りの発生が認められるようになった。
低温用釉薬は,カレットの添加量に影響されず,どの配合においてもタイルとの馴染みが良く,釉薬として利用できることが判る。

4.結  言
 石川県内から発生するカレット,浄水場発生土,フライアッシュ及び陶磁器屑の廃棄物をタイルの主原料として活用することを提案した。利用方法としては,カレットを前処理せず直接原料化する技術,市販タイル用坏土と同様な処理を行い原料とする技術及びタイルの釉薬として用いる技術について検討した。
その結果,以下の結論が得られた。
(1)未処理のカレットを原料として用いた場合,市販タイル用坏土50%とカレット50%を混合すれば成形可能であった。
(2)粉砕処理工程を経たカレットを用いると100%廃棄物を原料とするタイルの製造が可能であることが判った。焼成温度1250℃及び1050℃での最適配合条件は、前者についてはカレット5%,浄水場発生土30%,フライアッシュ35%及び陶磁器屑30%であり,後者ではカレット36%,浄水場発生土40%及びフライアッシュ24%であった。
(3)これまでにカレットを利用して商品化されているリサイクルタイルと比較し,試作したタイルは、廃棄物使用率及び物性面において優れていた。
(4)焼成温度1250℃及び1050℃のタイル用釉薬としてカレットを用いた。前者の最適配合条件はカレット60%,蛙目粘土40%であり,後者ではカレット泥漿60%〜40%,既存釉薬40%〜60%であれば釉薬として使用可能であった。

謝  辞
 本研究を遂行するに当たり,終始実験に協力を頂いた石川生コンコンクリート株式会社の藤田克洋氏に感謝します。

参考文献
1) 環境保全・リサイクル支援協議会他編:平成9年度リサイクル技術高度化推進事業廃棄物リサイクル技術の開発状況調査報告書, p.77-122 (1997)
2) 中村静夫:浄水場発生汚泥の窯業原料への有効利用, 平成8年度研究成果報告書, p.1-61 (1998)



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