生分解性繊維のフィールドテストによる分解性評価
[繊維部] 木水 貢
[情報指導部]   山本 孝
[水産総合センター]   永田 房雄

1.目的
 近年、プラスチック廃棄物による地球環境問題の関心が高まる中で、自然界が本来有している自然循環の流れに適合した素材として、生分解性材料が注目され、これを応用した生分解性製品の開発が盛んに進められている。当場では、生分解性材料である微生物産生タイプのポリエステルに続き、化学合成タイプのポリエステルについても繊維化の検討を行なってきた。本報では、化学合成タイプの繊維について用途開発の基礎的データとなる生分解速度や力学的特性を明確にするため、海水浸漬、土壌埋設のフィールドテストを行い、微生物タイプと比較した。

2.内容
2.1 試料
 化学合成タイプ3種(S1、S3、S1とS3のブレンドB)と微生物産生タイプ(D)の計4種類のモノフィラメントを試料として実験を行った。また、化学合成タイプS3の繊維を用いて網を作製し、その網についても海水中の分解試験を行った。

2.2 フィールドテスト
 海水中の分解試験は、それぞれの繊維3mをかせ状にして、内部を細かく区切ったかごに並べ、水産総合センター生産部能登島事業所の養殖棚の水深約1mにつり下げて行った。土壌中の分解試験は、共同研究企業敷地内(神奈川県横浜市)に試料を埋設して行った。試料は、約一ヶ月間隔で採取した。

2.3 分解性評価
 採取した繊維は、水で洗浄後、エタノール中に浸漬させた後、20℃、64%RHで約50時間乾燥させ、その後、乾燥重量を測定した。
 強伸度試験は、試験測定長を200mmとし、引張り速度200mmで行なった。
 さらに、走査型電子顕微鏡を用いて繊維表面の分解状態を観察した。

3.結果
3−1 重量及び強伸度特性の経時変化
 重量変化を比較すると、相対的に海水中(図2)より土壌中(図3)の分解のほうが進行が速い。微生物産生タイプについは前回 (*1)(平成4年、図2△)同じ場所で実施した結果とほぼ同様に半年で約60%の重量減少となることが確認された。
 化学合成タイプ2種(S3、B)は微生物産生タイプより分解速度が遅いものの、半年で約20〜40%の重量減少が確認された。化学合成タイプ(S1)は他に比べて分解速度がかなり遅く、土壌中でも150日で約10%の重量減少であった。
 引張強度は、重量減少の傾向よりさらに大きな強度減少傾向を示した(図4)。また、残存重量と強度との関係を検討した結果、どのサンプルも残存重量約60%以下では引張試験に耐えられないことがわかった。

3−2 電子顕微鏡による表面観察
 海水浸漬サンプルの走査電顕観察の結果 (図5)、S3サンプルの表面には微生物産生タイプDと同様に微生物分解による凹凸が均一に形成されていた。一方、S1サンプルの表面には凹凸がほとんど見られなかった。また、Bサンプルについては、表面が平滑なところと凹凸の激しいところが混在した状態になっていることが確認された。

3−3 ネット状態における経時変化
 生分解性ネットを海水浸漬したところ、約4ヶ月で破網しはじめた。比較用として置いたポリエチレンの網は、ほとんど変化が見られなかった。


(*1) 山本、木水、新川、前川、鞠谷、M.Cakmak,繊維学会予稿集 S-54(1993)


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