電子顕微鏡による織物欠点解析事例

[繊維部]  ○中西源次、松本義隆

1.目的
 新合繊をはじめ多種多様な繊維素材を用いた織編物が小ロット・短納期で生産される現状において、これらに発生する欠点も大変複雑化している。また、近年の消費者ニーズの多様化や高級化にともない、従来問題視されなかった微細な欠点がクレーム対象になっている。これらの欠点解析には、光学顕微鏡と比べはるかに分解性能に優れた走査型電子顕微鏡(以下SEM)による観察が有効である。当場でも、各種測定試験機器を使用した織物欠点解析事例を整理・分類した「織物欠点解析事例集」を第1集から第4集まで順次発行してきた。今回、SEMを用いた欠点解析事例で、特に今後のクレーム対策および品質向上に重要と考えられるものを、先の事例集の中より幾つか紹介する。

2.解析方法
 欠点の解析には、欠点発生箇所をよく観察すると同時に、欠点発生に関する情報を詳しく集めることが重要である。しかしながら、必ずしも十分な情報の入手が困難な場合もある。通常、欠点を解析するには、どのような工程を経て製品となったか、また、各工程における欠点の発生要因にはどのようなものがあるかを知る必要がある。
 そのため、図1に示すような、各工程別に関連する要因に基づき的確な情報を得ることが重要である。

3.解析事例

3−1 たて筋(おさ傷)
品 名 ポリエステルサテン
糸使い たて糸  PE 50D/36f
    よこ糸 PE 50D/24f
発生状況:織物の右端から約30cmにわたり白く光った筋がランダムに発現している。また、2〜3mm位の幅を持った箇所もある。
 電子顕微鏡で観察した結果、異常部分はたて糸のフィラメントの一部に損傷が見られる。さらに拡大すると、糸の表面が引っかかれてささくれ立っていることが判明した。おさに傷がある場合に発現する損傷に類似しており、本欠点はおさ傷が原因で発生したものと推察された。(図2)

3−2 たて筋(綜絖傷)
品 名 ポリエステル織物
糸使い たて糸  PE 30D/1f
    よこ糸 PE 50D/24f
S1000T/m
発生状況:生機検査では発見できなかったが、加工後濃染したたて筋が発生した。原糸が起因しているのではないかとクレームがあった。(図3)
 電子顕微鏡で観察した結果、異常部分のたて糸の表面が損傷している。さらに拡大すると、この傷は糸の長さ方向に対して横(直角)に溝を付けたように削られているのが判明した。本欠点は、綜絖の傷が原因で発生したものと推察された。

3−3 よこむら(白沢現象)
品 名 ポリエステルバックサテン
糸使い たて糸  PE 100D/48f
S,Z 2000T/m
S 800T/m
    よこ糸 PE 180D/60f
S,Z 1700T/m
発生状況:生機検査では発見されず、染色加工後織物の裏側によこ糸方向に沿って、2〜3cm位の長さでチカチカと光る白沢現象(カスリ状)が発生している。(図4)
 電子顕微鏡観察の結果、異常部分は「S撚り」のよこ糸の表面が痛んでおり、「Z撚り」には何の異常も見られない。さらに拡大すると、撚り糸表面の一部で糸の長さ方向にこすられて溶融しているところが無数にあり、これが白っぽくカスリ状となったものである。原因としては、管巻き工程における過度の摩擦により溶融したものと推察された。


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