切削状態モニタリングシステムの開発
[機械電子部] 坂谷勝明  廣崎憲一  藤井 要

1.目的
2.1 システムの構成
 切削加工の高精度・高能率化を図る上で、加工状態の計測・監視技術が果たす役割は大きい。かつて熟練作業者は切削加工状態を判定する目安として、工作機械のハンドル操作による切削力、振動などを人間の感覚によって感じ取っていた。しかし、NC化によるプログラム加工あるいは機械の密閉化によって、人間の感覚ではセンシングしにくい環境になってきている。
 本研究では、旋盤加工における切削力、切削熱、振動などの加工状態を各種センサを用いてモニタリングするシステムの開発を行った。

2.内容
2.1 システムの構成
 図1に切削状態モニタリングシステムの構成を示す。切削力およびその振動成分は、切削動力計(a)を用いて、主分力、送り分力、背分力の三分力の測定する。また切削温度は、光ファイバ赤外線輻射温度計(c)を用いて、工具すくい面上を通過する切り屑温度から測定する。それぞれの信号はアンプ(b),(d)を介して増幅され、A/D変換ボード(e)でデジタル信号に変換される。さらに、演算処理装置(f)でデータの解析処理され、ディスプレイ(g)で表示される。切削力や温度、振動等の諸現象は同時測定され、ディスプレイ上に統括的に表示される。

 振動などの動的な現象を計測するためには、ある程度の高速サンプリング性能と周波数解析等の分析性能を有する計測装置が必要となる。現状では、計測機器としてFFTアナライザー等があるが、高価であり、多チャンネル構成が難しく、表示部は、複雑で観察者にはわかりづらい。本研究では、センサ信号と観測者とのインタフェースとして、多チャンネル測定可能なA/D変換ボードを組み込んだパソコンを使用した。また、モニタ上にサンプリングデータを見やすく配置し、観測データを即座に収録して後で解析するための専用ソフトを使用した。表1に測定部、表2に演算処理部の主な仕様を示す。

表1 測定部の主な仕様
測定部 計測器 主な仕様
切削力測定部 切削動力計 ・測定範囲 Fx,Fy 3kN Fz 6kN
・共振周波数 1000Hz
切削温度測定部 光ファイバ温度 ・測定範囲 300〜1600℃
・光ファイバ径 φ0.2mm
・光ファイバ耐熱温度 900℃

 

表2 演算処理部の主な仕様
演算処理部 主な仕様
A/D変換ボード 入力チャンネル数 16ch.
サンプリング速度 最高1.25MHz
計測用プログラム開発ソフト
LabVIEW4.0Jwin95
パソコン CPU / pentium200MHz,メモリ64MB


2.3 計測プログラムの作成
 今回用いた専用ソフトは、図2に示すように基本プログラムの記述をブロック図を組み合わせて行うことができ、直感的に分かりやすいプログラムが可能である。また、プログラム内で使用する計器類の表示用ツールは、画面上での配置性やデザイン性に富んでおり、ユーザの測定項目に対応した専用の計測器として構築しやすく、柔軟で迅速なプログラミングが可能である。
 作成した計測プログラムの表示を図3に示す。モニター画面上では、リアルタイムでの切削力の3分力が棒グラフ状のメータ(A)により監視できる。また、その時間変化はチャート図(C)で観察できる。同様に切削温度とその時間的変化は、メータ(B)およびチャート(D)で表される。グラフ(E)は、主分力の時間変化をリアルタイムに周波数解析した結果を表示し、メータ(F)は主分力の時間的変化を統計的に処理した分散値を表示する。びびりの発生している加工状態と安定した加工状態では、分散値に大きな違いが生じるため、その有無を示す適切なしきい値を設定することができれば、びびりの発生を定量的に判定することができる。

図3 切削状態モニタリングシステムの表示部

2.2 モニタリングデータの利用
 開発したモニタリングシステムを用いて、主分力の時間的変化の分散値を利用した適応制御実験を試みた。使用したCNC旋盤は、NCプログラムの実行中に6ビットのデジタル信号を入力して、主軸回転数を0%から200%の間で変更することが可能である。デジタル信号の出力は、モニタリングシステムのプログラムに付加されたデジタル信号を出力するためのサブプログラムにより行った。
 実験は、切り込み量0.5mm、送り速度0.1mm/revの加工条件で、長さ10mm、外径46mm、肉厚2mmの炭素鋼パイプ材の外周切削を行った。主分力のサンプリングレートは5KHzとし、主分力の時間に対する変化の分散値を512データごとに算出した。
  図4に、制御を行わず、主軸回転数を一定の2000rpmで加工した場合の主分力とその分散値の時間的変化を示す。加工開始直後の先端部付近では、びびり振動を生じ、主分力は激しく変動し、その分散値も大きい。しかし、加工が進みチャックに近い部分になると振動がおさまって安定な状態になり、分散値も小さくなっているのがわかる。
  次に、主軸回転数変動による制御を行った。分散値にあるしきい値をもうけ、分散値がしきい値以下だと主軸回転数を10%ずつ上げ、上回ると一度に50%まで落とす条件設定で加工を行った。基本の主軸回転数は1000rpmとした。図5にその結果を示す。加工開始直後の先端部では、主軸回転数を50%(500rpm)に下げた低速な加工が行われているが、根元付近では、200%(2000rpm)まで上げて高速に加工しているのがわかる。また、びびり振動が押さえられ、分散値も全体的に小さい値で保たれているのがわかる。しかしながら、主軸回転数が不安定に変動する部分もあり、しきい値や回転数増減割合の設定方法が今後の課題である。

 


図4 主分力と分散値の変化(主軸回転数一定の場合)


図5 主分力と分散値の変化(主軸回転数を制御した場合)

3.結果
(1)旋盤による切削加工において、センサを用いて加工状態をモニタリングするシステムを開発した。
(2)切削力のモニタリングデータからびびり振動を検出し、主軸回転数を抑制する適応制御実験を試みた。
(3)今後は、モニタリングシステムにより捉えた加工現象を作業者に伝える方法として、触覚、聴覚などを介して体感できるシステムの開発を行う予定である。


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