簡易テキスト版

簡易テキストページは図や表を省略しています。
全文をご覧になりたい方は、PDF版をダウンロードしてください。

全文(PDFファイル:23KB、1ページ)

鋼の塩浴による熱処理条件と微粒子衝突による表面改質技術の検討

■株式会社経田鉄工 代表取締役  経田 悟士

■技術開発の背景
  木材の切削,破砕,彫刻等,木工機械に使用される刃物では,当社が得意とする高精度加工以外にも様々な点に注意しなければならない。現在,丸太からミクロンの精度で薄板を剥くための刃物台を製作しているが,たとえ相手が「木」という比較的軟らかい材質であっても,丸太がこすれる際の摩耗,木の節等がぶつかる際の衝撃は想像以上に大きい。加えて,あまり知られてはいないが,樹液による腐食も大きい。
  これらに関し,一見,同一と思われる規格化された熱処理条件においても,製品の機械的性質や耐腐食特性が大きく異なり,その外注委託先の違いで製品特性が大きく異なる現状に遭遇している。そのため我々は,機械加工を主とする企業であるにもかかわらず,外注工程である熱処理,表面処理条件に注目し,独自のデータベース構築による熱処理条件の最適化と微粒子衝突による表面処理によって,自社製品向上の可能性を検討している。

■技術開発の目標
1. 太平洋側の大手 (1)真空熱処理会社, (2)ソルトバス会社で詳細に熱処理条件を変化させたサンプルに対し,シャルピー衝撃試験やEPMAによる解析,X線による残留オーステナイト測定を行い,比較解析をして最適熱処理条件の探求を行う。
2. 熱処理条件をもとに,納期対応や開発する上で小回りの利く近隣の熱処理会社で,性能の再現性,熱処理条件の改善点等を確認しながら,さらなる最適化を図る。
3. 熱処理により最高の性能を得た鋼に,微粒子衝突による表面処理を施すことにより,疲労強度や耐食性を向上させ,より長寿命の製品を目指す。

■製品の特徴
1. 最高の熱処理を施すことにより,耐摩耗性,靭性,耐食性が大幅にアップ。さらに,曲げ強度も改善され,製品の寿命が格段に延びると共に,品質の向上に成功した。
2. 微粒子衝突による表面処理を施すことにより,熱処理のみの場合と比較して,疲労強度はもちろんのこと,耐食性においても大幅にアップ。さらに,微粒子衝突による表面処理特有の光沢感が,見た目にも高級感をあたえている。

(図1 製品の外観)

■今後の展開
  工業的に行われている熱処理やWPC処理の多くは,「硬くするため」,「疲労強度を上げるため」であり,それ以上のことは要求されないのが現状である。しかし,熱処理や微粒子衝突による表面処理は,さじ加減ひとつで,鋼の性質が大きく変わってしまうのも事実であり,まだまだ未知な領域が多く潜んでいる。製品個々での固有特性があり,万能の技術資料がほとんど存在しない領域であるため,自社製品に似合った独自のデータベースの構築こそが成功への近道であると考えている。ユーザーの要求がますます多様化する今,我々も常にその上の技術を追求していく必要があると考えている。