釉設計技術の研究と応用（平成17年成果発表会要旨集）

全文（PDFファイル：96KB、2ページ）

　釉設計技術の研究と応用

　■九谷焼技術センター　　　○髙橋　宏　　若林数夫

１．目　的
　釉は天然原料である陶石や長石を主に調合されるため，化学組成を始めとする物性値の変動が発生しやすい。また，本焼成時の温度，雰囲気，湿度も釉の性状に影響を及ぼすといわれている。この釉を取り巻く環境の複雑さが，発生した問題の長期化や根本的な対策の実施が困難となる要因である。上絵剥落，素地の変形，貫入など釉に関連した様々な問題の解決には，釉の物性解析を行い基礎的なデータの蓄積が重要であると考えられる。また，釉開発段階における物性変動の抑制や釉物性の許容範囲の設定は，製品の安定生産及び品質向上において重要である。本研究は，ゼーゲル式を元にして釉を開発し，可能な限り調合を単純化し物性を制御し易くすることを目的に開始した。今回は研究を通して開発した独自の釉を用いて，特に貫入と釉の粒度との関係について検討した結果を報告する。

２．内　容
2.1　釉薬の調合
　釉の調合に用いた原料は，長石，硅石，石灰石及びカオリンである。全体が1kgになるようにそれぞれ計算で調合比を求め，磁製ポットミルで混合粉砕した。組成が同一で粒度が異なる５水準の試験釉を粉砕時間を変えてそれぞれ作成した。

2.2　釉の分析・測定
　釉の化学組成は蛍光Ｘ線分析で，鉱物組成は粉末Ｘ線回折で行った。釉の粒度は，釉泥ショウを635メッシュ（目開き20μm）のフルイで通しフルイ上に残った粒子のwt%を測定して求めた。また釉の粒度分布についても測定した。

2.3　釉の評価
　粒度が釉に及ぼす影響を評価するにあたり，より実際的な評価方法として貫入（ヒビ発生）試験を実施した。貫入試験は，温度差180℃とした。粒度による貫入の発生の有無及び発生状況を観察した。本文には記述できなかったが，上絵の剥離に対する影響についても試験を行った。上絵焼成後，布製ガムテープを絵具塗布面上に貼り付け強制的に剥がす方法で密着性を評価した。
　貫入試験及び絵具剥離試験共に素地は鋳込み及びローラーマシンで成形したものそれぞれで実施した。

３．結　果
3.1　作成した釉の粒度と組成
　ポットミルでの粉砕時間を５時間単位で長くして５種類の粒度の試験釉を作成した。以下に粉砕時間と作成した釉の粒度（20μm上のwt%）を示す。
　図１に粉砕時間と，釉の主成分であるSiO2の含有量の関係を示した。破線が釉全体のシリカの含有量であり，実線が20μm上の粗い粒子中の含有量である。粉砕時間が長くなると，20μm上の粒子中のシリカ比が上昇している。また，釉全体に比べシリカの含有率が高い。図２は，粉砕時間と長石に含まれるアルカリ成分であるKとNaの含有率の関係を示したものである。アルカリ成分は粉砕時間が長くなるに従い，20μm上の含有量が減少している。シリカの変化とアルカリ成分の変化から，長石の粉砕が進んでいることがわかった。

（表１　粉砕時間と釉の粒度）
（図１　シリカ含有量の変化）
（図２　アルカリ成分含有量の変化）

3.2　貫入試験の評価結果
　粒度の異なるそれぞれの釉薬を，鋳込み成形素地およびローラーマシン成形素地各々に施釉後，還元焼成して試料とした。貫入試験は電気炉で試験体を210℃に熱した後，30℃の水中に投入して実施した。尚，粒度 44.3wt%の釉では本焼成後既に細かな貫入が発生していたため貫入試験から除外した。貫入の状態を見やすくするため貫入の部分に青色のインクを染み込ませた。図３の写真は，粒度22.4wt%と3.0wt%の貫入試験結果である。粒度22.4wt%では貫入は細かく発生した。粒度が細かくなるに従い貫入は大きくなり，粒度3.0wt%では鋳込み口付近に発生する程度であった。釉の粒度によって貫入発生の状態が異なることから，釉を構成する長石や硅石の粒度が貫入発生の主要因であることが判明した。ローラーマシン成形素地の場合も貫入発生の状態は同様の傾向を示した。釉において，粒度の管理が重要であることが今回の試験で明らかになった。

（図３　貫入試験結果　鋳込み素地上：22.4wt%、下：3.0wt%）

トップページ

平成17年成果発表会もくじ

概要のページに戻る