ナノ加工技術の実現のために
〜ナノファクトリーのための自立型ナノ加工・計測システムの開発〜


 現在の高度情報化社会を支える情報通信機器や各種モバイル機器などの製造には、マイクロメートルスケール(100万分の1メートル)以下の精密微細加工の実用化が大きな役割を果しています。今後のさらなる発展のためには、ナノメートルスケール(10億分の1メートル)化を目標としたさらなる超微細化が望まれ、実現できれば、その応用は情報分野に留まらず、エネルギー・バイオ・医薬など広範囲に及びその経済的な波及効果は大きいと考えられます。
  現在、実用化されている加工方法の中で最も微細化が進んでいるのは、光学・化学的手法である電子線リソグラフィや近接場露光、エッチング技術であり、半導体やフラットパネルディスプレイ(FPD)等の製造方法の主流となっています。これらには、大きな加工範囲を一度に微細加工できるという利点がありますが、加工形状は基本的にマスク転写による平面(2次元)形状であるため、加工の自由度が制限されます。また、マスクパターンリペア(配線除去修正)技術のように、特定の場所のみを加工する位置決め加工にも適しません。これに対して、これまでの機械加工技術をナノメートルサイズにまでサイズダウンすることで位置決め加工も可能な三次元ナノ加工を目指す試みがありますが、単に従来技術の延長だけでは、工具切れ刃サイズや工具摩耗、熱変形などの理由により実現不可能な状況にあります。ナノメートルスケールの機械加工・制御技術を確立するためには、従来と異なる発想の加工装置、加工手法を創成することが重要と言えます。
  一方、加工品質を高めるためには、加工後の寸法や形状を加工精度以上の高精度で測定し、その結果をもとに修正加工等を行う必要があります。ナノメートルサイズの加工を実現するためには、それ以上の精度で加工後の形状を計測する技術が必要であり、その方法に原子間力顕微鏡(AFM)技術があります。これは、先がナノメートルサイズにまで尖ったプローブ(探針)を被測定物表面に限りなく近づけた際、その先端と被測定物表面を構成する原子との間に作用する原子間力を利用して、その表面形状を原子オーダで測定する技術です。しかしながら、従来の様に加工と計測をそれぞれの異なる専用機で行っていたのでは、機器間の移動に伴う誤差が大きくなり、ナノメートルスケールの加工・計測では無視できない問題となります。
  工業試験場では、平成16年度より、富山大学が代表を務める地域新生コンソーシアム研究開発事業「ナノファクトリーのための自立型ナノ加工・計測システムの開発」に参加し、ナノ加工技術の実現に取り組んでいます。この事業には、(財)北陸産業活性化センターの下、富山大学を中心に、石川・富山両県から3企業、3研究機関が参加しています。本研究では、下図のようなナノメートルスケール微細加工とAFM計測をデスクトップサイズの同一機上で実現することでワークの脱着よる加工・計測の「不確かさ」を排除した加工システムの開発を目標としています。そして、それに必要な分解能1nm以下の超精密3軸位置決めステージやナノ加工が可能な刃先を有する様々な形状の超微細工具、各種工具や計測ヘッドを交換するための装置の開発を行っています。実現できれば、特殊な環境の設備を必要とせず、コンパクトで持ち運びが可能なナノメータスケールの超微細加工が可能となり、ナノファクトリーの基盤ツールとして位置づけられるものと期待されます。
  石川県では、ナノ加工など超微細加工技術の確立が県内企業の技術力の高度化に必要な重要施策の一つとして考えており、工業試験場では、本研究の成果を基に、県内技術の発展に活かして行きたいと考えています。

自立型ナノ加工・計測システムのイメージ図





担 当 機械金属部 舟田義則(ふなだよしのり)
専 門 精密測定,レーザ加工(溶接)
一 言 超微細加工は今後の「ものづくり」の重要な技術です。実用化目指してがんばります。



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